ANSYS Studentを使って、肉を低温調理することについて考える。
背景
低温調理した肉はうまい。 *1
一方で、加熱が不十分だと、食中毒のリスクもあり危険。
肉の加熱時間は、肉の中心温度が所定の温度に達してからの時間によって規定されている。
今回は、熱の解析によって、肉の中心温度を予測することで、低温調理器をする上での注意事項を考える。
今回の解析は、加熱時間の目安や安全性を担保するものではなく、ANSYSでのパラメータスタディなので、
実際に調理をする際には自分の環境や、レシピにあった条件での調理をしてください
解析方針
肉の内部の最低温度が、所定の加熱時間に対して、どれくらいまで上がるかを考える。
モデル
鍋の中を低温調理器によって一定温度にしたような状態を考える。
現実には、ジップロックに入れた肉と、低温調理器によって一定温度に保たれた水との熱交換。
解析的には、肉表面に対して、水が熱交換していることを想定する。
モデル化できてない部分
ジップロックからの放熱、ジップロックおよびジップロック内の空気による断熱、
この辺は、安全側のファクターじゃないので気をつける。
水流などは考えていないが、流体まで踏み込むと意味不明になりそうなので、見て見ぬふりする。
解析条件
肉の解析パラメータ(密度、熱伝達率)は、加熱調理と熱物性(杉山)より以下の牛肉の値を用いた。 *2
その他、基準となるパラメータはえいやで決めた。
肉の寸法は景気よくジップロックにパンパンに詰め込んだとして、W=1000mm,B=1500 mm,t=30 mm 。
熱伝達係数は、水の強制対流として、300 W/(m2 K)。
加熱時間は1時間。
肉の初期温度は、常温想定で22度。
水準
肉の厚み t=20,30,40,50,60,70mm
肉の初期温度To=22℃,4℃*3
水温度 Tw=60,70,80℃
熱伝達係数 300W/(m2 K)、50W/(m2 K)*4
解析結果
解析した形状の断面をみると、本当にステーキの断面みたいな温度分布になってるの 当然なんだけど面白い。
肉を加熱するシミュレーションに、効果音をいれてみた。 pic.twitter.com/TtslxNWCNk
— びー (@kbkbirogy) 2022年7月24日
図1.解析した肉の断面における温度分布
解析結果 厚みと肉の初期温度
肉の厚みは結構効く。普通に10mmオーダーでミスっただけで、内部温度が結構変わる。 今まで調理するときに結構適当に肉の厚みを見ていたが、惨劇が起きていた可能性があった。 安全側に時間設定してなかったら危険だった。
肉の初期温度も肉が分厚いほどに効く。 ステーキ肉ではこの厚みを食べる日は来る気はしないけど、 チャーシューとか鳥ハムつくるときは、この辺気をつけないと危険。
図2.肉の厚みに対する内部の最低温度(初期温度22度時と4度時)。80度に水温設定(黄線)
解析結果 自然対流と強制対流
自然対流(50W/(m2 K))か、強制対流(300W/(m2 K))かでも全然違う。 肉から水分が抜ける、ジップロックの中にソースを入れるみたいな状況だと、自然対流になっていそう。 設定温度と肉内の最小温度の差は、設定温度が高いほどに大きくなる傾向がみられる。 もしかすると、BONIQが出してる加熱時間目安も自然対流みたいな状態になっていたのかも。*5
表1.設定温度と熱伝達係数に対する、肉内の最小温度
設定温度/熱伝達係数 | 強制対流300m2 K | 自然対流50m2 K |
---|---|---|
60度 | 58.8度 | 54.26度 |
70度 | 68.5度 | 62.75度 |
80度 | 78.2度 | 71.24度 |
まとめ
肉の厚みはちゃんとみよう。
分厚い肉は常温に戻せ。さもなくば、長時間加熱しよう。
不安なときは、安全側で考えて、長めに加熱をしよう。
ANSYS使ってみた感想
いまいち、現実ワールドと結果があってる感じがしないから、後でBONIQとか論文とかの結果と見比べたい。
それはそれとして、ANSYSのパラメータ機能便利だし、ガチャガチャ遊ぶだけで楽しい。
こんな感じでパラメータを振った設定(肉厚、温度など)をすると、まとめて結果を出してくれる。
なぜか、初期温度がパラメータにできなかったり、若干歯がゆさもあるが、
今まで原始的に解析の条件変えてポチポチやってたとき比べると、100倍くらい楽。
あとは、今回は3D形状をdesignspaceで作ってしのいだけど、連携可能なCAD使いたい、と心底おもった。
*1:今の僕の低温調理器はこれ→ Amazon | アイリスオーヤマ 低温調理器 真空調理器 スロークッカー IPX7防水 低温調理器具 防水機能搭載 LTC-01 | アイリスオーヤマ(IRIS OHYAMA) | ホーム&キッチン 通販
*2:杉山 久仁子, 加熱調理と熱物性, 日本調理科学会誌, 2013, 46 巻, 4 号, p. 299-303,https://www.jstage.jst.go.jp/article/cookeryscience/46/4/46_299/_pdf
*3:冷蔵庫から取り出した想定